岡田仁志 連載コラム「はばたけ、闇翼たち!」第5回
2009/09/29 | <<一覧に戻る
5連休中に、3つのイベントに顔を出した。われながら熱心な人だなあと思う。9月20日から22日までの3日間、妻や子よりも代表選手の落合さんと喋った時間のほうが長かったかもしれない。いいのか悪いのかよくわからないことになっているが、それはこんなイベントだった。
(1)池袋サンシャインシティ「スポーツ・健康フェスタ」〜オリンピアン、パラリンピアンと遊ぼう〜(出演:釜本邦茂氏、名波浩氏、葭原滋男氏、日本代表選手4名)
(2)日本代表選手の自主練習会(クーバー・フットボールパーク八王子富士森公園)
(3)ブラサカの未来予想図をつくろう!(国立オリンピック記念青少年総合センター)
このうち、もっとも大勢の人が集まったのは(1)である。200人を楽に超える買い物客が足を止めて噴水広場の特設ステージを取り囲み、選手たちの実演に感嘆の声を上げていた。次に盛り上がったのは(3)で、ユニークなスタイルの会議に約40名の関係者が参加。長時間にわたって熱のこもった話し合いが行われた。いずれも、きわめて有意義なイベントだったと思う。
問題は(2)だ。アジア選手権を控えた代表選手たちには、「月に一度の合宿だけではチームとしての練習時間が足りない」という危機感があり、そのため、ときどき自分たちでグラウンドを借りて自主練習を行っている。9月は合宿も行われないので、今回の自主練は、ブランクを埋めるという意味でとくに重要だったに違いない。
ところが、集まったサポーターはわずか数名。私が自主練に足を運んだのは今回が初めてだが、どうやらいつも人が足りないようだ。前日に池袋サンシャインシティで華やかなイベントに立ち会ったこともあって、それはひどく寂しい光景に見えた。隣のコートでフットサルに興じていた人たちは、まさか自分たちのすぐ横で「サッカーの日本代表チーム」が練習しているとは思わなかっただろう。
サポーターが足りないと何が困るかというと、「カベ」がなくて困る。というのも、自主練は公式イベントではないので、サイドフェンスが使用できない(運搬には相当な手間と費用がかかる)。サイドフェンスなしでブラインドサッカーの練習をするのは、いわばガーターの溝のないレーンでボウリングの練習をするようなものだ。したがって、せめてサポーターが「ヒトカベ」を作らないといけないのだが、左右のタッチラインは合計80メートル。サポーターの人数が少なければ少ないほど、1人が担当する距離は長くなる。
サポーターにはコーラーや審判など他の仕事もあり、今回の練習で「ウォールマン(カベ役)」に回れたのは、私を含めてたった4人だった。1人が20メートル——センターラインからゴールラインまでの範囲——を走り回り、「カベ、カベ」と言いながらボールを蹴り返さなければならなかったのである。
これは辛い。というより、無理だ。まず、45歳の私はそんなに速く走れない。選手たちの鋭い切り返しに対応できるだけの反射神経も筋力もない。自分が怪我をして練習が滞ったのでは逆に迷惑をかけてしまうので、とても不安だった。それに、選手はボールのないところでも動いており、ふと見ると、タッチラインの外にポジションを取っていたりする。しかしウォールマンは基本的にボールを追うので、そこまで面倒をみきれない。練習の円滑な進行と安全確保のためには、最低でも8人は必要だろう。だが、その程度の人数も確保できないのが現状だ。
翌日、私はふくらはぎのあたりにかすかな筋肉痛を感じながら、ブラインドサッカーの「未来」を語り合う会議に出席した。集まった参加者を見渡して、「昨日、この3分の1でも集まれば楽だったのになあ」と思ったのは言うまでもない。もちろん大半の参加者は、前日にそんな練習があったことも知らなかったと思う。だから仕方ない面はあるものの、この人数のギャップは、そのまま「理想」と「現実」のギャップにもなりかねない。すでにアジア選手権本番まで3ヶ月を切っている。会議室で真剣に語り合った「未来図」を絵に描いた餅にしないためにも、まずは私たちの代表が直面しているピッチ上の「現実」をしっかりと支えなければいけないと思う。
人手が必要なのは、自主練だけではない。サイドフェンスを使用する合宿も、そのフェンス設営にはかなりの時間と労力がかかる。選手たちも自らそれを運び、(見えないのに)器用に組み立てている。「自分のことは自分でやる」という彼らの姿勢が、私は大好きだ。しかし、ただでさえ合宿がライバル国よりも少ない選手たちには、この時期、1分でも2分でも多くの時間をチーム練習に割いてほしい。そのためには、多くのサポーターが必要だ。フェンスは40枚なので、40人いれば「1人1枚」で済む。
フェンス設営が終わると仕事があまりなく、練習中は手持ちぶさたになる人も多いかもしれないが、ならば選手たちのプレイを楽しみ、声援を送ればいい。隣でフットサルをしている人たちは、「どんだけスゲェ奴らが練習してんだ?」とビビるだろう。代表チームには、それくらいの存在感があって然るべきである。12月のアミノバイタルを満員にするのが私の野望だが、その前に、代表練習のピッチ周辺を満員にしたいと思う。(2009/9/25)
プロフィール
岡田仁志(おかだ・ひとし) 昭和39(1964)年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。深川峻太郎の筆名でもエッセイやコラムを執筆し、著書に 『キャプテン翼勝利学』(集英社インターナショナル)がある。3年前からブラインドサッカーを取材し、今年6月、『闇の中の翼たち ブラインドサッカー日 本代表の苦闘』(幻冬舎)を上梓。