井原正巳さんインタビュー
2009/10/07 | <<一覧に戻る
井原さんとブラインドサッカーの出会いは2005年にさかのぼる。「パラサッカーチャリティカップ2005」に応援ゲストとして来場、参加者らとともに汗を流した。イベントでは目隠しをしてトラップやシュートなどの体験をし、ブラインドサッカーの試合も観戦した。
「井原正巳」は言わずと知れた名サッカー選手であり、現在はJリーグクラブ柏レイソルのヘッドコーチとして活躍する。選手としては往年の日本代表のキャプテンであり、「アジアの壁」と称され世界に名をとどろかせた。コーチとしても、柏レイソルのコーチに就く前、U-23日本代表のコーチとしてオリンピックを戦うなど、常にトップレベルのステージを戦いの場としてきた。
アジア、そして世界を知りつくした井原さんには、ブラインドサッカーはどのように映り、世界と戦うために何が必要だと感じたのだろうか。今回のインタビューでは、ブラインドサッカーのトップ選手のプレー映像を見ていただき、過去の体験も踏まえてブラインドサッカーについて独自の目線で語っていただいた。
―――ブラインドサッカーを見ていただき、どのような感想を持ちましたか
初めて見たときはブラインドの状態でピッチに立って、ボールを追いかけたり蹴ったりして、周りとぶつかったりしないのかなという不安感や恐怖感があるだろうと想像していました。本当に視覚障害者の方がサッカーをできるのかなという思いが強かったですね。でも、プレーを見るとスピード感もあるし、ボールを捕まえるのもうまくて音に対する反応もすごく速い。まず見て驚いたというのが正直な感想です。
僕が以前プレーしたのは実際に試合をしたわけではなく、体験のようなものでした。ボールがどこにあるかなどの情報を得ながらキックや、トラップすることはできました。しかし、それに人が入って対峙するとなると、相手も常に動きますし、プレーするのが非常に困難な状況になります。その中で気配を感じながらドリブルやシュートをする姿を見て、いろんな「感覚」を大事にしているのだなと感じました。僕らのサッカーでも「ゴールはあそこだ」とか「後ろからディフェンスが来てる」など視覚以外の感覚も大事にしていますが、彼らは僕ら以上に研ぎ澄まされたものを持っているのだと思います。感覚という部分を見れば、彼らは僕ら以上にプロフェッショナルだと感じます。
それと、ブラインドサッカーを経験させてもらって、難しさや大変さをすごく感じたけど、色んなサポートの声など信頼のある人の助けがあってサッカーができているということがわかりました。
―――井原さんは現役時代にディフェンダーとしてご活躍されて、特に声やコミュニケーションが必要なポジションだったと思うのですが、そのあたりでブラインドサッカーと共通することはありますか
ディフェンスのポジションから人を動かす「指示の声」というのはサッカーでは必要不可欠な要素です。ブラインドサッカーではコーチや監督の声が主になってくるとは思うのですが、的確な指示をどれだけできるかがプレーヤーたちにいいプレーをさせることに直結してきます。声がプレーを左右し、重要だという部分でどちらのサッカーも同じなのかなと思いました。
ブラインドサッカーの監督やコーチの役割というものは、僕らの監督やコーチの役割よりも数段大変になってきます。状況もすぐ変わっていくわけで、それを瞬時に判断して的確なコーチングをしていかなくてはいけません。それがプレーに直結していきますし、僕らのサッカーではコーチングではそこまで伝わりません。その場合は選手たちで修正しなくてはいけません。ブラインドサッカーにおける声出しを見ると、スタッフとのコミュニケーションや信頼関係がより重要になってくるのがよくわかります。
指示の声によってすばらしいチームプレーができたり、いいディフェンスができることに繋がってお互いの信頼関係も深まっていきます。信頼関係が深まれば深まるほど、いいグループ、いいチームが出来上がりますし、それは5人でも11人でも代わらないと思います。
―――今年の12月にアジア選手権が日本で開催されるのですが、アジアのチームと対戦する際の心構えなどはありますか
どこの国の選手たちもアジア選手権を突破し世界大会を目指しているわけで、その中で勝ち抜いていかなくてはいけないのですから、簡単にはいかないはずです。それは当り前だし、皆さんも承知の上で目標に向かって頑張っているので、勝ちたい気持ちを常に持って努力を続けていかなければなりません。そうすれば必ず道は開けてくるし、チャンスも巡ってきます。そのチャンスをものにするために日々努力をして頑張っているはずですので、それを続けていくしかないかなと思います。
アジアの中でのレベルの差はわからないですけど、それを縮めていくためにはやはり練習しかないですし、それはどの競技でも同じです。目標を達成しようとするなら、苦しいけれど努力し続けるしかないと思うので、強い気持ちを持ち続けて頑張っていくしかありません。もちろんその中に楽しむことや充実感というものも生まれてきますし、それで勝てればよりそういうものが得られるはずです。
簡単にいかないから大きい壁があるわけで、だからこそそれに向かって努力することが素晴らしいことなのだと思います。まずはサッカーができる喜びもあるし、目標に向かって努力できる舞台があるだけでも本当にいいことです。同じサッカーに携わっている人間として、お互い頑張って目標に向かい、より強くなっていければいいなと思います。
井原正巳さんのプロフィール
井原正巳(いはらまさみ) サッカー元日本代表主将
滋賀県甲賀郡水口町(現甲賀市)出身の元サッカー選手、サッカー指導者。現・柏レイソルヘッドコーチ。1990年代の日本サッカー界を代表するディフェンダーで、その高いディフェンス能力から「アジアの壁」の異名をとった。
サッカー歴
貴生川サッカー少年団 (全国大会出場)
1980 水口中学(滋賀県大会優勝、近畿大会準優勝)
1983 守山高校(インターハイ、全国大会出場、U-17日本代表)
1986 筑波大学(大学選手権優勝、1988年日本代表)
1990 日産F.C(現:横浜F・マリノス)
2000 ジュビロ磐田
2001 浦和レッズ
200212 引退(2004.01引退試合)
現役引退後
公認S級指導者ライセンス取得(2006.04)
日本サッカー協会”JFAアンバサダー”(2003-2006)
びわこ成蹊スポーツ大学客員教授(2003-現在)
サッカー解説(NHK・日刊スポーツなど)
サッカーの育成と指導(少年サッカーなど)
U-23日本代表コーチ(2006.08-2008.08)
柏レイソル ヘッドコーチ(2009.02-現在)
井原正巳さんのオフィシャルサイトはこちら:
http://www.ihara-masami.com/index.htm