岡田仁志 連載コラム「はばたけ、闇翼たち!」第8回

2009/12/03 | <<一覧に戻る

●アジアのライバルたち~韓国編

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日本の1勝2敗4分け――。2002年5月に行われた最初の親善試合から、2007年の第2回アジア選手権までの、対韓国戦の成績である。4つの引き分けのうち3試合はPK戦が行われ、こちらは日本の2勝1敗。まさに「好敵手」と呼ぶにふさわしい相手だ。

韓国は、IBSAルールのブラインドサッカーをアジアで最初に始めた国である。そのスタートは、日本より4年ほど早い。ソウルのオリンピック公園には、サイドフェンスを常設した専用競技場もある。私は自分の本が100万部売れたら「専用コートを作る」と選手に約束しているが、プレイ環境の面で韓国に追いつくのはかなり難しそうだ(すみません)。

だがブラインドサッカーの技術に関しては、すでに日本が韓国に追いつき、ある面では追い越してもいると私は思っている。私が現場で観戦した日韓戦は、06年の第4回世界選手権と07年のアジア選手権の2試合だが、ドリブル、パス、トラップといった基本技術はいずれも日本の選手たちのほうが上だった。

しかし世界選手権の7-8位決定戦では、終盤に追いつかれて2-2の引き分け(PK戦を制した日本が7位)。北京パラリンピック出場を懸けた2年前のアジア選手権では、内容的には最初から最後まで日本が韓国を圧倒し、何倍ものシュートを放ったにもかかわらず、0-1で敗れた。

勝てない原因は、はっきりしている。もちろん、選手たちの闘争心、ゴールへ向かう迫力、試合運びのうまさなど、韓国が日本をわずかに上回る要素はいくつもあるが、もっとも明白な差があるのは「PKの決定力」だ。世界選手権とアジア選手権で韓国に奪われた3つのゴールのうち、2つは第2PK(8メートル)、1つは通常のPK(6メートル)だった。一方の日本は、その2試合で(6メートルのPKは1本決めたものの)第2PKをすべて失敗している。

ブラインドサッカーでは、前後半それぞれチームのファウル数が4つになると、それ以降は相手チームに(FKではなく)第2PKが与えられる。これが勝敗の行方を大きく左右することは言うまでもない。とくに日韓戦は白熱するためお互いにファウルが多くなり、終盤はさながら「第2PK合戦」の様相を呈するのである。

そうなると、明らかに韓国が有利だ。向こうには、日本の関係者が「韓国のPK職人」と呼ぶスペシャリストがいる。背番号は14。彼のプレイについては『闇の中の翼たち』(幻冬舎)にも詳しく書いたが、膝から下をすばやく振って爪先から蹴り出すキックはコースが読めず、かなり反応のいいGKでも止められない。自らファウルをもらって第2PKを決めることに徹するその姿勢は、ある意味で見事だ。パラリンピック出場を阻まれた2年前の試合も、決勝点は彼の右足から生まれた。日本がまず心がけるべきは、無駄なファウルを犯さず、この14番に仕事をさせないことだろう。

ただし韓国も、昨年のパラリンピックでは、一昨年よりも全体の技量が上がっていた。以前の攻撃は、ゴール前にボールを蹴り出して走り込むスタイルが主だったが、いまはドリブルでボールを運べる選手が増えている。守備力も向上し、アジア選手権(07年)の2試合で7失点を喫した中国を、パラリンピックではPKのみの1点に抑えた。強豪スペインとも2-2で引き分けている(ただし韓国の同点ゴールはスペインGKの凡ミスによるもの。箸でもつまめそうな弱いシュートをトンネルしたときは、見ていてズッコケた)。ともあれ日本としては、この韓国戦に勝たなければ、本当の意味で2年前の雪辱を果たしたことにはならない。流れの中からのゴールをバンバン決めて、すっきり勝つところを見たいものである。

ただし、仮に「第2PK合戦」になったとしても大丈夫。今回は日本チームにも、待望の「PK職人」が現れた。チーム最年長、47歳の葭原滋男だ。練習で見るたびに決定力が高まっているので、本番でも必ず決めてくれるだろう。なにしろパラリンピックに4度も出場し、陸上と自転車で「金」を含む4つのメダルを獲った男である。大舞台での精神力の強さは誰にも負けまい。2年前の韓国戦は仕事の都合もあって代表入りせず、スタンドで観戦するしかなかったので、ほかのメンバーとは違う意味の悔しさも味わったはず。チームでただ一人、私と同世代の選手であるだけに、個人的にはこの韓国戦で、ヨッシーさんに「おっさんの意地」を炸裂させていただきたいと願っている。(2009/12/03)


プロフィール
岡田仁志(おかだ・ひとし) 昭和39(1964)年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。深川峻太郎の筆名でもエッセイやコラムを執筆し、著書に 『キャプテン翼勝利学』(集英社インターナショナル)がある。3年前からブラインドサッカーを取材し、今年6月、『闇の中の翼たち ブラインドサッカー日 本代表の苦闘』(幻冬舎)を上梓。

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